研究ジャーナル

研究テーマに関する書籍,論文の読書ノートです。

2017年5月

Hout, van den, J.J.J. (2016). Team flow: From concept to application. Unpublished Doctoral Dissertation. Eindhoven: Technische Universiteit Eindhoven.


フロー(Flow)とは心理学者チクセントミハイによって提唱された理論で,時が経つのも忘れて,何かに没頭している時に経験する心理状態(“最適経験”とも呼ばれる)のことを指す。本論は,そのような状態がチームの中でも起こり得るのか否かを,ビジネス場面を対象に実証的に調査・分析している。


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Walker, C. J. (2010). Experiencing flow: Is doing it together better than doing it alone? The Journal of Positive Psychology, 5, 3-11.


Salanova, M., Rodríguez-Sánchez, A. M., Schaufeli, W. B., & Cifre, E. (2014). Flowing together: A longitudinal study of collective efficacy and collective flow among workgroups. Journal of Psychology, 148, 435-455.


両者は,いずれもグループにおけるフロー経験について調査・分析したもの。前者ではsocial flow,後者ではcollective flowという用語を使っている。その他,応用言語学の文脈ではDörnyeiやMuirらが近年,Group DMCsという概念を提案している(Dörnyei, Henry, & Muir, 2016)。彼らによれば,フローとは一瞬,特定(その場)の活動において経験するものであり,DMC(Directed Motivational Current)とは比較的長い,その場を超えた(一連の)活動において経験するもの,さらにDMCは個人だけでなくグループで経験することもあり,その典型例としてはプロジェクト学習などが挙げられるという。いずれにしても,ポイントは個人を対象にしてきたフロー概念は集団(グループ)に対しても十分拡張可能だということ。


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Taguchi, N. (2016). Contexts and pragmatics learning: Problems and opportunities of the study abroad research. Language Teaching, 49, 1-14.


どのような理論的基盤に立つかに関わらず,第二言語習得を理解するにあたって,コンテクストは中心的な役割を果たす。加えて,インプット=インタラクション・アプローチから社会文化的アプローチ,ダイナミックシステム・アプローチへと近年の理論的関心が進展するにつれ,その傾向はますます強くなっている。本論は,語用論的能力の学習・発達において,コンテクストがどのような位置づけを担っているのかを,留学に関する3つの研究アプローチから検討している。留学先のコンテクストを「ブラックボックス」のように扱うのではなく,学習者が留学先でどのようなソーシャル・ネットワークを築き,その中で具体的にどのようなやり取りを行っているのかに目を向けることで,言語習得の実際をこれまで以上に詳細,かつ精緻に記述・分析することが可能になる。


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Hüffmeier, J., & Hertel, G. (2011). When the whole is more than the sum of its parts: Group motivation gains in the wild. Journal of Experimental Social Psychology, 47, 455-459.


個人よりもグループで仕事をすることの肯定的側面について,オリンピックの水泳競技に出場した選手らを対象に調査したもの。2012年ロンドン五輪で松田丈志選手(水泳400mメドレーリレー)が「(北島)康介さんを手ぶらで帰らせるわけにはいかない」と言って,結果的に(チームで)銀メダルを獲り,その後の2016年リオ五輪では松田選手の後輩らが「丈志さんを手ぶらで…」と言って,800メートルメドレーリレーで銅メダルを獲ったことはいまだ記憶に新しい。本論は,チームやグループのモチベーションというのは,パフォーマンスに大きな影響を与える可能性があることを実証的に示しており,その中でも「自分がやらなければ」というsocial indispensabilityが重要な鍵を握っていることを指摘している点は注目に値する。


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Aubé, C., Brunelle, E., & Rousseau, V. (2014). Flow experience and team performance: The role of team goal commitment and information exchange. Motivation and Emotion, 38, 120-130.


職場におけるチームのパフォーマンスとフローの関係を実証的に検討したもの。85のチームを対象として,疑似的なプロジェクト活動を伴う実験を行った結果,フロー体験とチームのパフォーマンスには正の関連が見られたことに加え,チームのメンバーによる目標達成への深い関与は両者のmediator variable,チームのメンバー内での意見交換は両者のmoderating variableとしての役割を果たすことを示している。


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奥総一郎,他(2017)『学生の学びと成長のプロセスを可視化する実践的研究: 成長軌道に乗せる“仕掛け”の多い教育を目指して』関東学院大学×ベネッセ共同研究報告書.


大学での学びを可視化し,その成果を教育の質向上へとつなげる試みとして,ベネッセi-キャリアが開発した「大学生基礎力レポートI」,「同II」などを活用した学生アセスメント,ならびにそこで得られたデータや授業での成績,レポートに基づいて抽出した学生に対するインタビュー調査の結果を踏まえ,大学における授業改善や研修プログラムの開発について報告している。FDを単なるお題目で終わらせるのではなく,より実効性のある取り組みへとつなげていくための具体的なヒントが得られる。


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吉田達弘(2017)「英語授業におけるペアワークの実践と研究」『KELESジャーナル』第2号, 6-10.


近年の英語教育ではコミュニケーション活動が重視され,タスクという言葉もすっかり定着した。また,新しい指導要領の中でも「主体的・対話的で深い学び」(いわゆるアクティブ・ラーニング)の重要性が指摘されている。したがって,今後の英語教育では他者とのやり取りを伴う言語活動(つまり,ペアやグループでの活動)の重要性はますます高まることは間違いない。その一方で,ペアやグループワークを対象とした研究というのは,必ずしも十分ではない。例えば,Boo et al.(2015)はここ10年ほどの動機づけ研究の現状をレビューした論文だが,ここで対象となった416編の論文の中にも,「ペア(ワーク)」といったキーワードがタイトルに含まれる論文は一本もなく,グループダイナミックスの観点から動機づけを扱ったものがわずかに見られるだけである。そのような現状において,本論ではペアワークの研究の重要性,最近の関連する研究から得られる知見をコンパクトにまとめ,続く2編の実践報告への橋渡し的な役割を担っている。実践報告では中学,あるいは高校のライティングにおけるペアワークに焦点を当てており,実際にペアで活動に取り組む学習者がどのような会話を行っていたかを微視的に分析した興味深い内容になっている。


2017年4月

Erlam, R. (2005). Language aptitude and its relationship to instructional effectiveness in second language acquisition. Language Teaching Research, 9, 147-171.


本論は,学習者の言語適性と3種類の異なった教授法(演繹的指導,帰納的指導,インプット処理指導)の効果との関連を実証的に検討したもの。対象はニュージーランドの高校で第二言語としてフランス語を学ぶ高校生60名。45分×3回の実験授業を実施し,計3回の言語能力テスト(プレ,ポスト,遅延),実験後の適性テストの結果を分析している。得られた結果のうち,とくに注目すべき点は,学習者に言語規則を説明した上で言語産出を行う機会を与えるような指導(本論でいう演繹的指導)には,言語適性における学習者の個人差が指導の効果に与える影響を少なくする可能性を期待できるということ。本論はATIの枠組みに直接的に基づいたものではないが,研究のアプローチ自体は学習者の適性と教授法との交互作用を考える上で参考になる。


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石黒広昭 (2016). 『子どもたちは教室で何を学ぶのか: 教育実践論から学習実践論へ』 東京: 東京大学出版会.


教室における学習や指導に関する実践を考える時,一般にそれは「指導者」の立場に立ってなされることが多い。しかし,実際の学習の主役は児童・生徒・学生であり,その意味では教室実践は「学習者」の立場から捉えられる(捉え直される)べきものである。本書はそのような問題意識に基づき,学校で行われる学び(とりわけ小学生に焦点を当てている)の実態をエスノグラフィーの手法を用いながら,詳細に記述・分析している。具体的には,児童・生徒にとって「小学校に入学する」とはどのような意味を持つのか,授業中の生徒と教師のやり取りを生徒の側から分析するとどのようなことが見えてくるのか,学びの場としての教室空間はどのような役割を果たし,生徒(の学び)にどのような影響を与えているのかなど,いずれも興味深いテーマを取り上げている。教室での学習実践を批判的に検討・考察している各章は,これまでとは違った視点から教室での学びを捉え直すことを可能にしてくれる。真の意味での「教育実践研究」とは何かを考える上でも非常に示唆に富む一冊。


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Brown, J. (2017). Forty years of doing second language testing, curriculum, and research: So what? Language Teaching, 50, 276-289.


テスティングやカリキュラム開発,研究法などの分野で多くの実績を残してきたJames D. Brownがこれまでの40年の仕事を振り返り,今後,この分野が向き合わなければいけないであろう課題やその解決に向けたアイディアなどを簡潔にまとめたもの。どんなテスト,どんなカリキュラムにも唯一絶対,「One Size Fits All」なものはない。したがって,ニーズ分析がとても大切になる。そうすると,例えば,分野によって用いられる英語(単語や表現)も違うということがよく分かる。


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Lamb, M. (in press). When motivation research motivates: Issues in long-term empirical investigations. Innovation in Language Learning and Teaching, 11.


近年の第二言語習得研究,とりわけ動機づけに関する研究では,ワンショットによるデータ収集ではなく,複数回にわたる縦断的なデータ収集により,学習者の動機づけの変化・発達を詳細に記述することが増えてきている。本論では,研究者が長期にわたって調査を行うことにより,調査協力者にどのような肯定的・否定的影響を与え得るのかについてインタビューの内容分析を通じて検討している。結果として,協力者の動機づけを高めるといった影響だけでなく,権威を持つもの(したがって,期待に応えなければならないもの),あるいは長期にわたって重荷になるものとして認識されていたことなどが明らかにされている。これまで秒,時間,週,年といったタイムスパンで動機づけの変化を検討した研究はいくつも報告されているが,本論のように10年以上にわたって協力者を追跡し,彼らの動機づけを検討している研究は極めて少ない。研究テーマの設定と同様,非常にユニークな論文だと言える。


2014年度~2016年度

2016年4月~2017年3月の「研究ジャーナル」はこちらです。


2015年4月~2016年3月の「研究ジャーナル」はこちらです。


2014年4月~2015年3月の「研究ジャーナル」はこちらです。