研究ジャーナル

研究テーマに関する書籍,論文の読書ノートです。

2017年7月

Ellis, R. (Ed.) (2016). Becoming and being an applied linguist: The life histories of some applied linguists. Amsterdam: John Benjamins.


近年の第二言語習得研究では,社会的コンテクストを含めて第二言語学習を理解しようとする「社会的アプローチ」が用いられる傾向にある。そのようなアプローチのもとでは,研究の対象者に自らの体験・経験を主観的に語ってもらう「ナラティブ研究」といった手法が取られることが多い。本書は,応用言語学の研究分野を代表する著名な研究者13名(具体的には,Rod Ellis,I.S.P. Nation,J.Charles Alderson,Peter Skehan,Zoltán Dörnyeiなど)を対象にして,ナラティブ研究の手法を用い,彼らがどのようにして応用言語学者になったか,応用言語学者であるとはどういうことか,また自身はどのように応用言語学研究を行ってきたのかについて,それぞれのライフヒストリーを精緻に記述・考察している。随所でナラティブ研究の利点,有効性が感じられるだけでなく,応用言語学という学問自体の立体的広がりも見て取ることができる。「読み物」という観点からも,読み応えのある一冊となっている。


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Leow, R., & Donatelli, L. (2017). The role of (un)awareness in SLA. Language Teaching, 50, 189-211.


本論は,第二言語習得研究における「気づき」(awareness)の役割に焦点を当てたもの。これまで約30年にわたって行われてきた研究をプロセスとプロダクトの観点から,時間軸に沿って包括的に整理・考察している。「気づき」という心理言語学的現象は,第二言語習得を考える上で非常に重要な役割を果たしている。本論は,そのような構成概念を理論的,実証的,あるいは方法論的に検討する上で,参考になる資料を提供している。


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Bower, K. (in press). Explaining motivation in language learning: A framework for evaluation and research. Language Learning Research, 45.


本論は,ダイナミックシステム理論の観点に基づき,質的あるいは混合研究法を用いた動機づけ研究を実施するための理論的枠組みを提案したもの。その上で,CLILによる外国語指導が学習者の動機づけに与える影響をイギリスの3つの学校を対象に調査し,提案された枠組みの適用可能性について検討している。近年の新しい動機づけ研究の動向を踏まえ,ただ単に「動機づけ概念」の再構築を目指しているわけではなく,動機づけを「調査・研究する枠組み」自体の再構築を志向しているというのが本論のユニークな点。


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Jackson, J. (2016). The language use, attitudes, and motivation of Chinese students prior to a semester-long sojourn in an English-speaking environment. Study Abroad Research in Second Language Acquisition and International Education, 1, 4-33.


留学に関する研究では,留学前後の言語的,非言語的変化を扱ったものや留学中での経験に焦点を当てたものが多く見られる。それに対して,本研究は留学前の段階に着目し,対象となった学習者がどのような目的や期待,あるいは不安などを抱えていたかを外国語学習に対する態度や動機づけとの関連から調査している。留学プログラムにおける事前研修の重要性はしばしば指摘されるが,本研究のような取り組みはそのような研修の実施に際して,より具体的なヒントを与えるものと考えられる。


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Schwieter, J., & Klassen, G. (2016). Linguistic advances and learning strategies in a short-term study abroad experience. Study Abroad Research in Second Language Acquisition and International Education, 1, 217-247.


本論は,短期間の留学経験によって,留学経験者の言語的な発達(語彙や文法など)にはどのような変化が見られ,その変化と学習方略の使用にはどのような関連があるのかを調査したもの。留学の前後で,留学経験者は使用する学習方略を文法の正確性を重視したものから,よりコミュニケーションを重視したものへと変化させていた可能性があることを「U字型発達曲線」の観点から考察している。


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Cigliana, K., & Serrano, R. (2016). Individual differences in U.S. study abroad students in Barcelona: A look into their attitudes, motivations and L2 contact. Study Abroad Research in Second Language Acquisition and International Education, 1, 154-185.


留学が言語面,非言語面に肯定的な影響を与えることに異論をはさむ余地はないが,必ずしも留学経験者がみな同様の成果を上げるわけではなく,そこには個人差が伴う。本論では,個人差を形成するいくつかの代表的な要因を取り上げ,それらのうちどの要因が留学の成果により大きな影響を与えるのかを調査している。スペインのバルセロナに留学していた54名のアメリカ人大学生を対象にした調査の結果からは,目標言語に対する肯定的な態度や統合的動機づけは目標言語とどの程度接触する機会を持つかに影響を与え,そのことが結果として,言語面の伸びに対する認識に影響を与えていた可能性があることを指摘している。


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山中伸弥・伊藤穣一 (2016) 『「プレゼン」力-未来を変える「伝える」技術』 東京: 講談社.


この時代,いわゆる「プレゼン(テーション)」は至るところに溢れている。その結果,聞く方の耳もこなれてきている。本書は,そのような時代にあって,いかに相手に伝わる・伝えるプレゼンを行うかに焦点を当て,これまでの著者らのプレゼンにまつわるエピソードや,優れたプレゼンを可能にする具体的かつ実践的な技術などを紹介している。山中先生曰く,「研究者の仕事は研究内容が50%,それをどう伝えるかが50%」。いくら良い研究をしても,相手に伝わらなければ,それはあまり意味がない。相手(聴衆)に寄り添ったプレゼンの重要性を考えるきっかけとなる良書。


2017年6月

Kobayashi, Y. (in press). ASEAN English teachers as a model for international English learners: Modified teaching principles. International Journal of Applied Linguistics, 27.


近年,どのような英語を学び教えるかといった議論の中で,いわゆる英語母語話者が用いる英語ではなく,リンガフランカとしての英語,国際語としての英語,World Englishesなどの役割に注目が集まっている。本論は,アジア圏で英語を教える際に留意すべきポイントをまとめたKirkpatrick(2014)の「リンガフランカ・アプローチ」の原則に基づき,マレーシアの大学教育機関に所属する英語教師や責任者を対象としたインタビュー調査の結果を報告している。データ分析の結果,上記アプローチが提唱する原理・原則とマレーシアの教育現場の間には一部相違点(リンガフランカとしての英語だけでなく,標準イギリス英語を支持する風土も強い)なども見られ,結果として,修正版の「リンガフランカ・アプローチ」の原則を提案している。


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Massa, L., & Mayer, R. (2006). Testing the ATI hypothesis: Should multimedia instruction accommodate verbalizer-visualizer cognitive style? Learning and Individual Differences, 16, 321-335.


本論は,認知スタイルの違いによって,指導法を変えるべきか否かを計3つの実験を通じて検証したもの。コンピュータを用いた介入において,文字あるいは絵によるフィードバック(指導法の操作化)を行った結果,対象となった被験者は言語型(verbalizer),視覚型(visualizer)のいずれかに分類可能なことは確かめられた一方,各スタイルに応じた介入の効果(いわゆるATI)は確認されなかった。一般に,文字(だけ)よりも絵や図などを伴った学習の方がより効果が見込めるというのは想像に難くないことからも,実験の手続きにおいて,やや妥当性に欠ける面もあるように思われる。


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Tragant., E., Munoz, C., & Spada, N. (2016). Maximizing young learners’ input: An intervention program. Canadian Modern Language Review, 72, 234-257.


EFL環境で学ぶ英語学習者にとって,大きな課題はいかにインプットの「量」と「質」を確保するかということ。本論は,スペインで外国語として英語を学ぶ小学生を対象に約一年間にわたって教育介入を行い,その効果を検証したもの。介入の中身としては,オーディオブックを用いたリーディング/リスニング活動による理解中心の教授法(週2コマ,90分)と教師による指導(週1コマ,60分)を組み合わせたもの。結果として,言語面の伸びだけでなく,英語学習に対する肯定的な態度など心理面においても効果が確認された。年少の学習者はとりわけ音を聞き分ける能力に秀でている。彼らの特性を十分に活かすためには,文字の指導に加えて,音声を取り入れた指導をより充実させていくことが重要だということが,本研究の結果からも示唆される。


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三宅義和 (2017). 『対談(2)!日本人が英語を学ぶ理由』 東京: プレジデント社.


昨年出版された『対談!日本の英語教育が変わる日』(三宅, 2016)に続く第2弾。趣旨は前回と同様,イーオン社長・三宅義和氏とさまざまな分野で活躍している11人の著名人との間で行われた対談を1冊の本にまとめたもの。「学習指導要領」改訂で日本の英語教育はどう変わるのか,ドコモのオンラインサービス「gacco」が日本の教育にもたらす可能性,これからの大学教育とグローバル人材育成など,読み物としても興味深いトピックが数多く取り上げられている。ちなみに,本学の大六野耕作先生(明治大学副学長)も対談に登場している。


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An, D., & Carr, M. (in press). Learning style theory fails to explain learning and achievement: Recommendations for alternative approaches. Personality and Individual Differences, 117.


学習スタイルに関する研究の課題や問題点を3つの観点(理論的枠組みの曖昧さ,測定に伴う妥当性・信頼性の欠如,学習成果との間に見られる一貫しない関係性)から述べ,それらの克服や改善に寄与すると著者らが考えるいくつかのアプローチについて紹介している。「熟達者-初学者」や「完璧主義」といった新たな考え方を取り上げているが,いずれも従来からある概念のラベリングを張り替えただけのようにも感じられる。


参考になる点もあるが,本質的な議論としては,学習スタイルを考慮した指導がそのまま学習成果の改善につながるほど,物事は単純ではないということ。同様のことは,関連する概念である学習動機や学習方略にも言える。学習の成果を規定する要因にはさまざまなものがあるはずで,その中から学習スタイルだけを取り出してきて,そこを操作すればどうにかなるというのはあまりにもナイーブ。こういった考え方をもとにして,学習スタイル概念に見切りをつけてしまうようなことがあるとすれば,それはとても勿体ないように感じる。なぜなら,学習者を観察する「ものの見方」の1つとして,学習スタイルという考え方は非常に直感的で,感覚的にも分かりやすい概念だから。


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Gkonou, C., Mercer, S., & Daubney, M. (2016). Teacher perspectives on language learning psychology. Language Learning Journal, 45, 1-13.


近年,第二言語学習の心理学(language learning psychology)への関心が高まっている。関連する国際学会が開かれたり,ジャーナルでの特集号が組まれたりする一方,研究の多くは学習者を対象としたものである。本論はそのような現状を鑑み,ヨーロッパ3ヵ国(ギリシャ,ポルトガル,オーストリア)の外国語教師311名を対象に,彼らがそれぞれのコンテクストにおいて,指導上,どのような心理的要因を重要視しているかを検討したもの。アンケートとインタビューによる2つの調査結果から,動機づけやWTCなど教師が重要と考え,研究も多く行われている要因がある一方,グループダイナミックスのように教師らが重要と考えているにも関わらず,十分な研究が行われていない要因もあることが明らかとなった。


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Wigglesworth, G., & Storch, N. (2009). Pair versus individual writing: Effects on fluency, complexity and accuracy. Language Testing, 26, 445-466.


ペアによるライティング活動がライティングのパフォーマンスに与える影響をFCA(流暢さ,複雑さ,正確さ)の観点から検証している。分析の結果,ペアワークによる効果は正確さの向上には見られたものの,流暢さ,複雑さにはそれほど影響を与えなかったことを明らかにしている。ペアでの学びを分析する視点はいくつかあるが,本論の第二著者(Storch)が提案する枠組み(ペアワークでのやり取りを「対等の関係性のありなし」「互恵性のありなし」から4つのパターンに分類している)は,ペアでの学びの実際を分析する上で示唆に富む。


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キース・ソーヤー(著),金子宣子(訳)(2009)『凡才の集団は孤高の天才に勝る:「グループ・ジーニアス」が生み出すものすごいアイデア』東京: ダイヤモンド社.


そもそも本書(原書)のタイトルにもなっている「Group」と「Genius」は,コロケーションとしてはあまり一般的ではない。天才というのは通例は「個人」を指すものだろうし,その意味で「集団」と共起するものではない。一方で,著者は「孤高の天才」などというのは神話に過ぎず,グループゆえに生まれる天才的な発想「Group Genius」というものがあると指摘する。本書は,「Group Genius」という心理的な現象を広範な調査・分析と著者自身の豊富な実体験を踏まえて,分かりやすく紐解いたものである。チクセントミハイを大学院時代の指導教員とする著者が,グループで経験するフロー状態を「グループ・フロー」と名付け,そのような状態へと導く「10の条件」をまとめた本書は,グループやチームなどを率いるリーダーや教師に多くのヒントを与えてくれる。


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Park, H., & Hiver, P. (in press). Profiling and tracing motivational change in project-based L2 learning. System, 57.


本論は,プロジェクト学習の前後において,動機づけがどのように変化したかを記述・分析したもの。動機づけについては,言語不安,自己効力感,理想L2自己の3観点に基づき学習者をプロファイリングし,プロジェクト前後でどのような変化があったかを質問紙,ジャーナル,インタビューを用いて検討している。アプローチとしては賛同できる一方,肝心のプロジェクト学習の中身が「ブラックボックス」のまま。結果として,たかだか1ページ半のディスカッション部分に「may(やmight)」が計13回も出てくる。


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キャサリン・A・クラフト(著),里中哲彦(編訳)(2017)『日本人の9割が間違える英語表現100』東京: 筑摩書房.


日本人がよく犯す英語の誤りを100個取り上げて,具体例などとともに解説したもの。扱われている表現はそれほど難易度が高いものはなく,大学の初級学習者あたりまでを想定していると思われる。どのトピックからでも読み始められるし,すべて2ページずつで完結しているので,隙間時間などを使って気軽に読むことができる。


2017年5月

Wen, Z., Biedron, A., & Skehan, P. (2017). Foreign language aptitude theory: Yesterday, today and tomorrow. Language Teaching, 50, 1-31.


言語適性研究に関するレビュー論文。副題からも明らかなように,本論では言語適性に関する研究を大きく3つに分類している。具体的には,キャロルによる先駆的な研究,その後のより広範な領域から言語適性について検討した研究,そして近年のワーキングメモリ等を含めた新しい適性理論と今後の適性研究の展開である。内容の多くはすでに他で紹介されているが,MLATなど伝統的な適性テストとHiLABなど比較的新しい適性テストを領域固有-領域一般,明示的知識(学習)-暗示的知識(学習)との対比から捉えようとする視点は新しいものであり,このような試みによって第二言語習得研究により直接的な示唆を与えられる研究が増える可能性がある。


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Hout, van den, J.J.J. (2016). Team flow: From concept to application. Unpublished Doctoral Dissertation. Eindhoven: Technische Universiteit Eindhoven.


フロー(Flow)とは心理学者チクセントミハイによって提唱された理論で,時が経つのも忘れて,何かに没頭している時に経験する心理状態(“最適経験”とも呼ばれる)のことを指す。本論は,そのような状態がチームの中でも起こり得るのか否かを,ビジネス場面を対象に実証的に調査・分析している。


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Walker, C. J. (2010). Experiencing flow: Is doing it together better than doing it alone? The Journal of Positive Psychology, 5, 3-11.


Salanova, M., Rodríguez-Sánchez, A. M., Schaufeli, W. B., & Cifre, E. (2014). Flowing together: A longitudinal study of collective efficacy and collective flow among workgroups. Journal of Psychology, 148, 435-455.


両者は,いずれもグループにおけるフロー経験について調査・分析したもの。前者ではsocial flow,後者ではcollective flowという用語を使っている。その他,応用言語学の文脈ではDörnyeiやMuirらが近年,Group DMCsという概念を提案している(Dörnyei, Henry, & Muir, 2016)。彼らによれば,フローとは一瞬,特定(その場)の活動において経験するものであり,DMC(Directed Motivational Current)とは比較的長い,その場を超えた(一連の)活動において経験するもの,さらにDMCは個人だけでなくグループで経験することもあり,その典型例としてはプロジェクト学習などが挙げられるという。いずれにしても,ポイントは個人を対象にしてきたフロー概念は集団(グループ)に対しても十分拡張可能だということ。


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Taguchi, N. (2016). Contexts and pragmatics learning: Problems and opportunities of the study abroad research. Language Teaching, 49, 1-14.


どのような理論的基盤に立つかに関わらず,第二言語習得を理解するにあたって,コンテクストは中心的な役割を果たす。加えて,インプット=インタラクション・アプローチから社会文化的アプローチ,ダイナミックシステム・アプローチへと近年の理論的関心が進展するにつれ,その傾向はますます強くなっている。本論は,語用論的能力の学習・発達において,コンテクストがどのような位置づけを担っているのかを,留学に関する3つの研究アプローチから検討している。留学先のコンテクストを「ブラックボックス」のように扱うのではなく,学習者が留学先でどのようなソーシャル・ネットワークを築き,その中で具体的にどのようなやり取りを行っているのかに目を向けることで,言語習得の実際をこれまで以上に詳細,かつ精緻に記述・分析することが可能になる。


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Hüffmeier, J., & Hertel, G. (2011). When the whole is more than the sum of its parts: Group motivation gains in the wild. Journal of Experimental Social Psychology, 47, 455-459.


個人よりもグループで仕事をすることの肯定的側面について,オリンピックの水泳競技に出場した選手らを対象に調査したもの。2012年ロンドン五輪で松田丈志選手(水泳400mメドレーリレー)が「(北島)康介さんを手ぶらで帰らせるわけにはいかない」と言って,結果的に(チームで)銀メダルを獲り,その後の2016年リオ五輪では松田選手の後輩らが「丈志さんを手ぶらで…」と言って,800メートルメドレーリレーで銅メダルを獲ったことはいまだ記憶に新しい。本論は,チームやグループのモチベーションというのは,パフォーマンスに大きな影響を与える可能性があることを実証的に示しており,その中でも「自分がやらなければ」というsocial indispensabilityが重要な鍵を握っていることを指摘している点は注目に値する。


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Aubé, C., Brunelle, E., & Rousseau, V. (2014). Flow experience and team performance: The role of team goal commitment and information exchange. Motivation and Emotion, 38, 120-130.


職場におけるチームのパフォーマンスとフローの関係を実証的に検討したもの。85のチームを対象として,疑似的なプロジェクト活動を伴う実験を行った結果,フロー体験とチームのパフォーマンスには正の関連が見られたことに加え,チームのメンバーによる目標達成への深い関与は両者のmediator variable,チームのメンバー内での意見交換は両者のmoderating variableとしての役割を果たすことを示している。


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奥総一郎,他(2017)『学生の学びと成長のプロセスを可視化する実践的研究: 成長軌道に乗せる“仕掛け”の多い教育を目指して』関東学院大学×ベネッセ共同研究報告書.


大学での学びを可視化し,その成果を教育の質向上へとつなげる試みとして,ベネッセi-キャリアが開発した「大学生基礎力レポートI」,「同II」などを活用した学生アセスメント,ならびにそこで得られたデータや授業での成績,レポートに基づいて抽出した学生に対するインタビュー調査の結果を踏まえ,大学における授業改善や研修プログラムの開発について報告している。FDを単なるお題目で終わらせるのではなく,より実効性のある取り組みへとつなげていくための具体的なヒントが得られる。


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吉田達弘(2017)「英語授業におけるペアワークの実践と研究」『KELESジャーナル』第2号, 6-10.


近年の英語教育ではコミュニケーション活動が重視され,タスクという言葉もすっかり定着した。また,新しい指導要領の中でも「主体的・対話的で深い学び」(いわゆるアクティブ・ラーニング)の重要性が指摘されている。したがって,今後の英語教育では他者とのやり取りを伴う言語活動(つまり,ペアやグループでの活動)の重要性はますます高まることは間違いない。その一方で,ペアやグループワークを対象とした研究というのは,必ずしも十分ではない。例えば,Boo et al.(2015)はここ10年ほどの動機づけ研究の現状をレビューした論文だが,ここで対象となった416編の論文の中にも,「ペア(ワーク)」といったキーワードがタイトルに含まれる論文は一本もなく,グループダイナミックスの観点から動機づけを扱ったものがわずかに見られるだけである。そのような現状において,本論ではペアワークの研究の重要性,最近の関連する研究から得られる知見をコンパクトにまとめ,続く2編の実践報告への橋渡し的な役割を担っている。実践報告では中学,あるいは高校のライティングにおけるペアワークに焦点を当てており,実際にペアで活動に取り組む学習者がどのような会話を行っていたかを微視的に分析した興味深い内容になっている。


2017年4月

Erlam, R. (2005). Language aptitude and its relationship to instructional effectiveness in second language acquisition. Language Teaching Research, 9, 147-171.


本論は,学習者の言語適性と3種類の異なった教授法(演繹的指導,帰納的指導,インプット処理指導)の効果との関連を実証的に検討したもの。対象はニュージーランドの高校で第二言語としてフランス語を学ぶ高校生60名。45分×3回の実験授業を実施し,計3回の言語能力テスト(プレ,ポスト,遅延),実験後の適性テストの結果を分析している。得られた結果のうち,とくに注目すべき点は,学習者に言語規則を説明した上で言語産出を行う機会を与えるような指導(本論でいう演繹的指導)には,言語適性における学習者の個人差が指導の効果に与える影響を少なくする可能性を期待できるということ。本論はATIの枠組みに直接的に基づいたものではないが,研究のアプローチ自体は学習者の適性と教授法との交互作用を考える上で参考になる。


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石黒広昭 (2016). 『子どもたちは教室で何を学ぶのか: 教育実践論から学習実践論へ』 東京: 東京大学出版会.


教室における学習や指導に関する実践を考える時,一般にそれは「指導者」の立場に立ってなされることが多い。しかし,実際の学習の主役は児童・生徒・学生であり,その意味では教室実践は「学習者」の立場から捉えられる(捉え直される)べきものである。本書はそのような問題意識に基づき,学校で行われる学び(とりわけ小学生に焦点を当てている)の実態をエスノグラフィーの手法を用いながら,詳細に記述・分析している。具体的には,児童・生徒にとって「小学校に入学する」とはどのような意味を持つのか,授業中の生徒と教師のやり取りを生徒の側から分析するとどのようなことが見えてくるのか,学びの場としての教室空間はどのような役割を果たし,生徒(の学び)にどのような影響を与えているのかなど,いずれも興味深いテーマを取り上げている。教室での学習実践を批判的に検討・考察している各章は,これまでとは違った視点から教室での学びを捉え直すことを可能にしてくれる。真の意味での「教育実践研究」とは何かを考える上でも非常に示唆に富む一冊。


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Brown, J. (2017). Forty years of doing second language testing, curriculum, and research: So what? Language Teaching, 50, 276-289.


テスティングやカリキュラム開発,研究法などの分野で多くの実績を残してきたJames D. Brownがこれまでの40年の仕事を振り返り,今後,この分野が向き合わなければいけないであろう課題やその解決に向けたアイディアなどを簡潔にまとめたもの。どんなテスト,どんなカリキュラムにも唯一絶対,「One Size Fits All」なものはない。したがって,ニーズ分析がとても大切になる。そうすると,例えば,分野によって用いられる英語(単語や表現)も違うということがよく分かる。


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Lamb, M. (in press). When motivation research motivates: Issues in long-term empirical investigations. Innovation in Language Learning and Teaching, 11.


近年の第二言語習得研究,とりわけ動機づけに関する研究では,ワンショットによるデータ収集ではなく,複数回にわたる縦断的なデータ収集により,学習者の動機づけの変化・発達を詳細に記述することが増えてきている。本論では,研究者が長期にわたって調査を行うことにより,調査協力者にどのような肯定的・否定的影響を与え得るのかについてインタビューの内容分析を通じて検討している。結果として,協力者の動機づけを高めるといった影響だけでなく,権威を持つもの(したがって,期待に応えなければならないもの),あるいは長期にわたって重荷になるものとして認識されていたことなどが明らかにされている。これまで秒,時間,週,年といったタイムスパンで動機づけの変化を検討した研究はいくつも報告されているが,本論のように10年以上にわたって協力者を追跡し,彼らの動機づけを検討している研究は極めて少ない。研究テーマの設定と同様,非常にユニークな論文だと言える。


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